情報251 木内宏『毘沙門叩き』

 本の帯に、蝦夷の末裔が伝える田村麿の裏切りと闇の王国の秘祭とは?奥羽山地を舞台に、中央と辺境、日米関係の今を照射する新アテルイ伝説。とある。岩手県内の寺から毘沙門天立像が何者かに持ち去られ、一夜明ければ無事に戻るという奇妙な出来事が相次ぐ。~毘沙門天は、「先住民攻略の尖兵」として将兵らから軍神と奉られ、蝦夷から見れば「血ぬられた侵略者ヤマトの象徴」で、田村麻呂はその化身と崇められた。さらに著者は「全ての邪悪な存在の象徴」とまで言う~。そして、その日はいずれも旧暦の八月十三日で阿弖流為の命日にあたっていた。阿弖流為を祖とする蝦夷の末裔の集落が、過疎化が進み3家族9人となって奥羽山地最深部の山襞に隠れてあった。そこでは、「阿弖流為はヤマトに謀殺された。罠にはめた謀略の主役は田村麻呂だ」と代々言い伝えてきた。毘沙門天の持ち去りは「ヤマトに謀られた遠祖阿弖流為の真実を世に問いたい」ということであった。その集落の秘儀は、「忘れはせぬぞ怨み千年」を唱え、首で截ち切られた毘沙門天の頭に木槌をそっと打ちおろす「お叩き」と呼ぶ儀式であった。復讐を諦め、千二百年もの間叩き続け、「お叩き」で阿弖流為の受けた辱めを伝えてきたのである。著者は元朝日新聞社記者。〔朝日クリエ、2010年10月発行、1,890円〕