情報242 NHK「ライバル日本史」でのアテルイ役

 胆江日日新聞の安彦公一編集長の連載コラム『穏やかな時間』(平成22年2月26日付)は、「ライバルについて」をテーマとし、そのなかで自身がNHKの番組ロケでアテルイ役を演じた体験を交えながら書いている。その部分を抜粋して紹介する。はや20年ほども昔になる。NHK総合テレビの番組に「ライバル日本史」というのがあって、「アテルイ」と「坂上田村麻呂」を取り上げた。そのロケ隊が胆沢城跡にやってきた。その日は大雪だった。「地元にアテルイ役はいないか」ということになって、白羽の矢が立った。どうせ、体が大きく、ヒゲ面がその安易な選択の理由だったのだろう。が、そのロケの内容も聞かずに、出ることにしたのが間違いだった。テレビでは、大雪の中、胆沢城跡でアテルイ降伏のシーンを撮りたい、という。が、アテルイが胆沢城の坂上田村麻呂を訪ねて降伏したのは、夏のことだ。しかも、当時は「ワラジ」をはいているはずもないのに、「当時の沓がないので、ワラジにしましょう」とワラジで雪の中を歩くはめになった。当然のことながら、ワラジに防水、防寒機能などのぞむべくもない。足を雪に入れた瞬間、足が凍りついたかと思った。その上、ひざまづいて、雪の中に頭を突っ込まなければならない。それだけでもいいかげん頭にきていたのに、かのNHKの看板アナウンサー三宅さんが、何度もとちって、テイク6までいった。そのつど、雪の中を歩き、ひざまづき、雪に頭をつけるのを繰り返した。
 史実に遠いことを演じさせられている不満と、寒さで散々だったが、せめてもの救いが、衣装の女性の言葉だった。「この毛皮は、『炎立つ』のとき、里見さんが着けたんですよ」。里見浩太朗といえば、いまでは「水戸黄門」を演じている時代劇の大スターだ。で、周囲には今回の出演をこう言うことにした。「NHK主演俳優」。せりふも共演者もなかったが、アテルイ役を演じたことは間違いない。一方のライバル役、田村麻呂はどこにもいない。誰か、雪の中に立っていてくれるだけでも、こちらは迫真の演技ができたのに...。こんなことを言ってはなんだが、アテルイと田村麻呂は、そもそもライバルでもなんでもない。「敵」である。たまたま田村麻呂は、アテルイを評価し、胆沢の統治に用いようと助命を嘆願したし、おそらくは「友情」に近い感情も芽生えてはいたのだろう。が、二人の関係は肉食獣と馬と同じだ。アテルイの戦いは、仲間の離反との戦いでもあった。最終的には、統率力が問われた。アテルイにとってのライバルはむしろ、エミシの中にこそいた。(以下、略)