情報216 臨川書店『差別と向き合うマンガたち』

 田中聡氏(立命館大学・大阪樟蔭女子大学非常勤講師)執筆の第2章「マンガと歴史叙述」の最初が「1.学習マンガのなかの野蛮人~蝦夷の族長アテルイ~」。本書は2007年7月の刊行だが、初出は部落問題研究所機関誌『人権と部落問題』の連載コラム「差別と向き合うマンガたち」(2004年5月号)。「図1は髪を振り乱し、片肌脱ぎでごわごわの胸毛をみせたアテルイが、屋外で裸の部下たちを前に気勢を上げている。これに対して図2は、同じように朝廷への反抗を誓うシーンだが、平板張りの屋内で、角髪を結い衣服を整えたアテルイが蝦夷たちと座って話し合っている。荒々しく野蛮な蝦夷の王アテルイと、理知的で文明化された首長アテルイという、それぞれの印象は、前後を読むとさらにはっきりする。図1では非農耕民と朝廷の力比べとして描かれる戦いが、図2では朝廷の支配から逃れた農耕民が独立を守るための戦いとしてされているのだ。同じ人物を描きながら、こんな違いがどうして出るのだろうか。じつはこの二作品、図1は1967年、図2は1981年の作で、描かれた時期に14年の開きがある。この間に蝦夷についての研究上の大きな転換が起こったのだ。(中略)蝦夷の実態は同じ「日本人」に他ならない、とする理解が通説となった。こうした蝦夷観-民族観の変化が、マンガでのアテルイ像をも変えてしまったということだろう。基礎知識の少ない子どもが読んでも、アテルイが異民族なのか、「日本人」なのかはほとんど直感的に理解できる。マンガのもつこうした文化の差をとらえる力と、差別との関係を考える必要がありそうだ。」