情報97 豊田有恒著『古代英雄七人の謎』(東京書籍)

ヤマトタケル、継体天皇、聖徳太子、推古天皇、天武天皇、長屋王と続き、最後に「悪路王」が取り上げられている。「アテルイこそ、まさに郷土の英雄だった。大和の侵略者を撃退した民族的指導者だった。だが、時が下るにつれて、坂上田村麻呂が神聖化されるのとまるで反比例するかのように、アテルイはとうとう盗賊や鬼という域にまで貶められてしまった。伝説の悪路王こそ、変形され歪曲されたアテルイの成れの果てということになる。」(文中より)
 これまで、アテルイが登場する歴史小説(『陸奥の対決』1976年)なども書いている著者は、「はじめて悪路王の看板を達谷窟で目にしたときは、言いしれぬ義憤を覚えたものである」と振り返り、だが、一昔まえと比べると事態は改善されていると、現況を次のように紹介している。
 「水沢市には、「アテルイを顕彰する会」がある。また、関係者の運動で、京都清水寺の境内に、アテルイの顕彰碑が建立された。清水寺が、坂上田村麻呂が開基した名刹だからである。悪路王という盗賊や、はては異形の鬼とまで貶められた郷土の英雄は、はるか時の流れを越えて、ようやく人権を回復されつつあるのだ。」