情報58 佐藤正助『阿弖流為・母禮の実像とその時代』

東北の古代史に関する「六国史」の記事を順を追って紹介しながら、著者の視座からそれを読み解いた。国史の捏造部分を抉る試みという。著者は「巣伏の英雄阿弖流為を被征服者の立場から考えてみたいと常々思っていた」と前書し、書名にも阿弖流為の名前を入れているが、「阿弖流為・母禮の実像」究明に触れる部分はそれほど多くはない。阿弖流為に関しては、【1】「阿弖流為とは田茂山の跡呂井に住む人と言う呼称」である。【2】「阿弖流為は後代に至り次第に英雄に仕立て上げられた人物」である。【3】「阿弖流為とは出生死亡も確認されない謎の英雄」である。【4】「阿弖流為は決して大国を統一した首領とは思われないし、軍事教育を受けた武官でもなく、訓練した兵士を従えた専門的な軍人ではない。普通の土着の農民であったが、律令制の不条理さと無頼人上がりの政府役人の行動に憤りを感じ、決起しただけなのかも知れない。やがてその指導性と剛胆さが衆目の見るところとなり最高指導者に選ばれたのであろう」。【5】「大和政権の軍事力に対応して戦闘集団が自然発生し、それを統率する酋長として阿弖流為が生まれたものであろう」などというものである。