情報31 今泉隆雄「三人の蝦夷-阿弖流為と呰麻呂・真麻呂-」

三、大墓公阿弖流為では、〈阿弖流為研究〉のポイントともいうべき内容が各項目に整理されて述べられている。当会会報『アテルイ通信』に掲載した及川洵氏、伊藤博幸氏の研究についてもかなりの部分でふれている。例えば大墓公の姓について、及川氏は阿弖流為が帰降した後に賜姓されたと考えるのに対し、「私は彼が延暦八年以前にすでに国家に帰服して賜姓されていたが、賊となったので姓を剥奪され、さらに降伏したので本姓に戻されたと考える」とか、阿弖流為らの入京は裁判のためではなく、「戦果としての俘虜の京進として行なわれたと考えられる」など、今泉氏の見解が積極的に述べられている。
阿弖流為と母礼の姓についての訓は、「両人は夷であるからウジ名は夷語による地名で、また名も夷語によるものであろう。これらの表記は夷語の音を畿内の官人が漢字表記したものである。ウジ名は夷語であるからオオハカとかオオツカのように和語として意味を持つ訓読はさけた方がよく、万葉仮名としてまたは音読して大墓はタモ、盤具はバングと訓ずる」としている。 処刑地については、杜山・植山・椙山という文字の異同があるが、神英雄氏の「椙山」説を検討し、「杜山が誤りであることを認め」つつ、「一概に植山が誤りで椙山が正しいとはいえない」と、「今のところ」と断って両説を併記している。他。〈阿弖流為研究〉の必読論文である。【『日本古代国家の展開(上)』所収