情報280 コバヤシ忠明『アテルイを育てた女たち』

延暦八年の合戦に大勝利したのは、蝦夷最大の豪族モレが、若いアテルイを「祭り上げ」、日高見国連合軍を組織してのものだった。
物語は胆沢の族長「巣伏」の長男として生まれながら、虚弱体質で家督は継げないと周囲に見られていたアテルイが、山で鍛えられ、戻って胆沢の大棟梁に祭られて戦いを進めていくものである。

10歳になったアテルイは一人前にするために軽業を使う青年「梵天」に預けられ、教育される。
「梵天」は口から火を吹いて敵を威嚇するテズマの術の持ち主であった。
しかし、2年後に大和の落武者に殺される。
アテルイはその後、山で出会った醜い老婆「野枝」と「春日」という孤児の娘と一緒に暮らすことになる。
「野枝」は軽業を身に着けた蝦夷出身の下女で、坂上苅田麻呂に仕えて密偵の仕事もしていた。
肉体強化に励むアテルイに御身刀を授け秘術を伝えたが、約一年後に田村麻呂の軍師で法華経の修行僧「薬丸」に殺される。
アテルイは残された「春日」と山で荒行を続けるが、16歳になり巣伏の村に帰ることを決意する。
胆沢では大和の大軍に対抗する連合軍を組織することになり、それを束ねる棟梁を誰にするかの会合が続いていた。そこにアテルイが呼び出され、口から火を吹く術を見せたことで棟梁に決まり、モレは守り役となって戦いが本格的に始まるのである。

しかし、蝦夷の連合軍が次第に劣勢となっていくなかで、この物語は完結することなく終わる。
最後のほうでは、「征夷の正義を賭けた戦い」とか、「蝦夷軍は人肉を食ってもという、極悪集団である」というような記述があり、著者の意図?が誤解されなければいいがと思う。
著者は会員。
【龍書房、2014年6月発行】