情報48 円乗淳一著『エミス アテルイ』(津軽書房)

古代国家と「エミス」との戦いをアテルイを主人公として描いた歴史小説。古代陸奥をめぐる道嶋一族と坂上一族の主導権争いが一方の軸として展開されている。生臭い謀略が渦巻き、それが逆にリアルでもある。そのひとつは、宝亀11年の「呰麻呂の乱」。牡鹿郡大領・道嶋大楯が陸奥介・大伴真綱と謀って按察使・紀広純を殺し、呰麻呂の反逆に見せ掛けることを企てたが失敗するのである。また、アテルイとの最後の戦いでは功名を争う道嶋御楯を夜襲の混乱に紛れて殺してしまう。田村麻呂は非情で残酷な人間として描かれている。「男であれ女であれ、老人であれ小児であれ、出遭った蝦夷は必ず殺せ」と命令し、アテルイについても、「彼奴らは、皇軍の下卒にも劣る辺境の蛮人に過ぎぬよ」と吐き捨てる。田村麻呂ファンにとっては読むに耐えられないかもしれない。