情報254 岡本雅享「アテルイ復権の軌跡とエミシ意識の覚醒」

 福岡県立大学の岡本雅享准教授が、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター『アジア太平洋レビュー』第8号(2011年11月発行)に、「アテルイ復権の軌跡」を詳細に紹介しつつ、それを主導した人々の思いを探り、その意味したものを明らかにしようとした論文を発表している。以下の目次から、その内容もある程度推察できよう。

1.エミシをめぐる自意識と他者認識
 (1)民族国家の形成とエミシ
 (2)矛盾する自己認識
 (3)中近世から近代日本における他者による奥羽・東北観
2.アテルイの戦いと悪路王の伝説
 (1)ヤマトの侵略とエミシの抵抗
 (2)東北の鬼と悪路王の伝説
 3.東北「熊襲」発言事件にみる現代日本のエミシ観
 (1)大阪商工会議所会頭がもらした畿内人の東北観
 (2)東北人の怒り
 (3)再生産される東北人蔑視観
4.エミシの末裔という自意識
5.アテルイ復権を導いた人々とその思い
 (1)一力一夫河北新報社長
 (2)「延暦八年の会」と「アテルイを顕彰する会」
 (3)関西アテルイ顕彰会
 (4)映画「アテルイ」と鳥居明夫・シネマ東北社長
 (5)アテルイ復権をめぐるその他の動き
6.東北の風土が育むエミシ民族

 このなかでは、当会の初代会長である故藤波隆夫氏の話をはじめ、「アテルイ復権は運動によらなければならない」という2002年の当会の声明、さらにそれは「中央から押しつけられた一方的な歴史観をはねのける運動」であるという及川洵現会長の言葉なども紹介されている。そして、「エミシの復権を全国にアピールする原動力となった民間団体が、胆江地域の「延暦八年の会」や「アテルイを顕彰する会」である。」との評価を受けている。筆者は最後に、「勝者の描く歴史によって、アテルイは歴史の中に埋もれ、命を賭して自分達の国を侵略者から守ったエミシのリーダーたちは、田村麻呂の英雄伝説が流布される中、逆賊、悪者として、民間伝承の中では鬼にまで貶められて、語られていった。東北人は、勝者の描く歴史を史実と思い、故郷を守った祖先の英雄を、悪者、鬼として語り継いできたのである。だからこそ、東北が中央への従属を断ち切り、誇りをとり戻すためには、「日本」の歴史の中で賊と蔑まれたアテルイを、祖先の英雄として評価しなおす作業が必要だったのである。アテルイ顕彰・復権運動には、東北人の中に醸成されてきた負のイメージを払拭する願いが込められていたともいえる。」とまとめている。