情報249 高橋克彦『風の陣 裂心篇』

 八世紀中頃の黄金発見に伴う中央政界の権力抗争と蝦夷たちの戦いを描く歴史巨編で、第一弾【立志篇】(1995年12月)に始まり【大望篇】【天命篇】【風雲篇】と続いたシリーズ第五弾の完結篇。陸奥の黄金を求めて牙を剥く朝廷に対し、多賀城に仕えながらも蝦夷の楽土の建設を願う伊治鮮麻呂がついに起ち上がり、若き阿弖流為も登場する。このシリーズの次の展開は、『火怨~北の耀星アテルイ』に連なる。
 伊治城を預かる鮮麻呂は、蝦夷に対する理不尽な討伐が避けられない事態になるなかで、陸奥守で按察使の紀広純と道嶋大楯が伊治の城に来るという好機に反逆を決意する。そして、すべての蝦夷をひとつにまとめるために、胆沢を治める阿久斗と息子の阿弖流為に援軍を求める。阿弖流為は「わずか十やそこらのとき田村麻呂に馬の駆け競べを挑んだほどの怖い物知らず」であり、すでに「蝦夷一の強者」との評判で、胆沢中に勇名が響き渡っていた。決起の日、阿弖流為と副将の母礼が150の胆沢の兵を率いて伊治城外で果敢な戦いを繰り広げる。目的を達した鮮麻呂は最後に、「人とは...次の時代に繋がる橋を渡すために生まれてきたのだ。それを自分は果たした。自分が架けた橋を阿弖流為たちが渡って行くだろう。その先の大地は阿弖流為たちが切り拓く。たとえ自分がこの目で見られぬとて、それでいい。爽やかに吹き抜けてこそ...風である」との境地に。〔PHP研究所、2010年9月発行、1,890円〕