情報220 安久澤連『北風の譜~陸奥蝦夷争乱悲話~』

 陸奥按察使藤原朝狩と胆沢の村長の娘とのあいだに生れたカタミヒコを主人公に、少年時代の多賀城(第一部国府多賀城春秋)に始まり、名取(第二部海と川沿いの里)、胆沢(第三部日高見川の歌)と辿り、最後にアテルイの降伏に立ち会うまでの「蝦夷争乱」の時代を物語とした。第三部からアテルイが登場する。アテルイは、「父祖の地の日高見川の支流胆沢川沿いから多くの人々を率いて、日高見川沿いに居を作り、広い周辺の地を切り開いて、大きな村(熊の堂村)を作り上げた」とされ、アテルイの家は「今では縁組などを通じて川の東にも広い土地を持ち、胆沢全体の村長たちの間に隠然とした力」を持ち、当主のアテルイは「壮年を過ぎつつあるが、それだけ思慮に富む男」とされる。延暦八年の朝廷軍の胆沢侵攻に対し、アテルイは胆沢の村々をまとめて戦い、勝利するが、延暦13年の侵攻に対しては大敗、延暦20年の侵攻に対しては戦いを挑むことすらできず、翌年に降伏する。著者はこの降伏までに至る展開を、胆沢の村々の連合が裏切りや脱落などで内部から醜いまでに崩壊していく過程として叙述している。強大な古代国家との対決ということであっても、はたして胆沢の蝦夷の紐帯はこれほどもろいものだったのか。そうであったとすれば、確かに「悲話」ということになろう。本書は、著者が1988年に出版した『朔風の彼方』(自家製本)を全般にわたって手を加え、改題した。(2008.5、鳥影社、1700円)