情報105 熊谷達也著『まほろばの疾風』(集英社)

「蝦夷の長、アテルイ。朝廷軍の将、坂上田村麻呂。古代東北を駆け抜けた両雄の新しい物語。新田次郎文学賞作家が放つ書き下ろし歴史巨編。」という触れこみ。イサワの村長の息子で村を捨て大和に走ったアザマロがアテルイの父、桃生城を襲ったウクツハウはアテルイが生まれ育ったトイメム村の村長の息子で母の弟、そしてモレはイワイ村の大巫女で女村長という意外な人物設定。
 アテルイが14歳の時、村が大和の軍勢の焼き討ちにあう。アテルイは桃生城に連行され俘囚としての生活を強いられるが、やがては反乱を起こしイサワの長になる父アザマロと合流。蝦夷の国の建国を目指したアザマロの死後、イサワの長として大和の軍と戦うというストーリー。
 この小説のアテルイは、敵将を直接襲い威嚇して取り引きするのがかなり得意である。新田柵まで軍勢を進めた百済王俊哲の寝所を襲って喉元に刃を付きつけ、撤退の密約をさせ、延暦八年には多賀城に入った紀古佐美の寝所に女装して入りこみ小刀を喉仏に突きつけ取り引きをもちかける。最後には、桓武天皇から直接の許しを得るが、突然桓武を襲って羽交い締めにし、自ら首を切られることを選ぶ。