情報69 高橋克彦氏へのインタビュー

盛岡市在住の直木賞作家で、河北新報朝刊にエミシの英雄アテルイを主人公にした小説「火怨~北の耀星アテルイ~」を連載した高橋克彦氏が、同新聞掲載「直言東北へ7」(平成10年2月10日)で、東北の視点や歴史の書き換えということについて次のように話している。
「アテルイや奥州藤原一族を小説のテーマに選んだのは『東北人自身に東北の歴史を知ってもらいたい』と思ったからだ。歴史上、東北の人物が悪者になったり、土地が辺ぴとされたりするのは、東北独自の史観がないからだ。われわれは中央史観を押し付けられてきたのではないか。」「東北の歴史は史料や記録が少ない。例えば坂上田村麻呂が副将軍として遠征してきたときの、エミシとの戦闘の記録がない。朝廷側が勝ったとされているが、その数年後に田村麻呂が将軍として再び東北に赴いたということは、実は戦いに勝っていなかった、という仮説が成り立つ。『都合の悪い歴史は消してしまえ』と、アテルイの記録は時の権力者によって抹殺されてしまった可能性もある。」「東北の歴史を語ることは、他の地域とは違ったニュアンスを持つ。日本史には耶馬台国など多くのなぞが残されているが、それを解き明かしたところで地域の意識が変わることはない。東北の歴史をひもとくことは、東北の根底にあるコンプレックスを打ち破ることにつながる。エミシが東北に住む人々の総称だとすると、その歴史は東北に生きた人間が中央に立ち向かった歴史だ。現代の東北でも、エミシの魂は地域の誇りにつながるはずだ」