情報26 「地方史研究の現状・岩手県」(1995.6『日本歴史』第565号)

〔古代〕四、蝦夷社会論の中で、阿弖流為研究の現状をとりあげている。著者は水沢市埋蔵文化財調査センター副所長の伊藤博幸氏(当会幹事)。以下紹介する。
「蝦夷戦士首長の象徴が阿弖流(利)為である。従来の阿弖流為研究はひとえに対国家関係でのみ論じられてきた。そこには蝦夷の中の阿弖流為らの位置付けを見出すことができない。本格的阿弖流為研究は及川洵「アテルイをめぐる二、三の問題」(『岩手考古学』四、1992年)に始まるといえよう。及川は令制に基づかない阿弖流為らの処遇に関して考察を加えている。公姓の非剥奪(付与?)、市外での処刑、あるいは彼らの入京は事実かなど確かに検討すべきことが多い。高橋富雄「大墓公阿弖流為と盤具公母禮」(平安博物館研究部編 『角田文衛博士古希記念古代学叢論』同館、1983)は地名や表音文字の検討から原典復原を行い彼らの本拠地問題に及ぶが、神英雄「蝦夷梟帥阿弖利為・母礼斬殺地に関する一考察」(日野博士還暦記念会編 『歴史と伝承』永田文昌堂、1988)の諸写本検討による批判もあり、『紀略』『逸史』誤記説は成立し難い。また神は阿弖流為斬殺地が河内国〈杜〉でなく〈椙〉が正しいことを指摘した。」